東京地方裁判所 昭和40年(ワ)7361号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告が前記のように被告に委任をした際、本件建物は未だ家屋台張に登録がなされていなかつた。そして当時施行されていた不動産登記法第一〇六条によれば、建物の所有権保存登記の申請は、原則として判決により自己の所有権を証する場合のほかは、家屋台帳に所有者として登録されている者またはその相続人においてのみこれをなすことができたから、本件建物についても右申請に先だつて家屋台帳法に則り建物の建築の申告をして家屋台帳にその登録をすることが必要であり、そのためには右登録申告とともに、建築基準法第六条の確認や、同七条の検査のあつたことを証する書面、請負契約書あるいは売買契約書など申告者が所有者であることを証する書面、さらに建物の所在図及びその平面図等の添付、呈示が要求され、従つて前記受任に際して山下○○は佐藤××に対して本件建物に関する叙上のような書類を整えるよう求めた。しかしながら佐藤又は原告はその後これら書類を整えて被告方に持参することなく、そのため書類の到着を待つていた被告としては本件建物について登録申告、従つてまた所有権保存登記の申請をするに由なかつた。
ところで受任者が受任事務を処理するに当つては固り、委託された約旨に副い、その趣旨に適うよう善良なる管理者の注意をもつてこれをなすべきであるけれども、前記のように被告は司法書士であるから『他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局若くは地方法務局に提出する書類を代つて作成することを業とする』(司法書士法第一条)ものであり、そして本件においては右業務に関して本件建物の所有権保存登記手続の委託を受けたものであること前段認定のとおりであるから、右手続のため必要とされる書類のうち被告が代つて作成しうるものは別として、本来原告の手許にあるべきもの、または原告において第三者に作成を求めなければならないものについては、被告は原告に対してかかる書類の必要を指摘し、その調製持参を促せばこの段階における受任事務処理としてもはや懈怠がないものというべく、以後は原告の一存にかかることとして、たとえ右書類の持参が遅滞していようとも、進んでその督促を繰返すが如きことまでは、上記受任事務の処理に関し、被告に要求される事柄でないといわねばならない。そうだとすれば、前記認定の事実に照して、本件建物の所有権保存登記手続のなされなかつたことは、所詮、受任者被告の責に帰すべからざる事由によるものといわざるをえない。(中田四郎)